千葉大学大学院医学研究院の倉島洋介准教授、東京大学医科学研究所の清野宏教授、高里良宏医師の研究グループは、食物アレルギーの唯一の治療法でありながら、その機序について不明な点が多かった経口免疫療法の治療メカニズムの一端を解明した。
同研究では、アレルギーの発症の原因である「悪玉」免疫細胞の一つ、マスト細胞が、治療が成功している場合にはアレルギーを抑える働きをする「善玉」細胞へと切り替わっていることが、マウスを用いた実験により明らかになった。
この発見をもとに、悪玉細胞を善玉細胞へと効率的に切り替えるスイッチ機構の解明が進めば、そこに着目した切り替え促進薬の開発によりアレルギー治療が大きく進歩することが期待される。同研究は、慶応大学、順天堂大学、日本大学、カリフォルニア大学を含む多施設との共同研究の成果。この成果を報告した論文は、12月10日(日本時間)発行の米国学術誌Mucosal Immunology誌オンライン版にて発表された。
図1:アレルギー反応が起こる仕組み
研究の背景
食物アレルギーは日本で約120万人の患者がいるとされており、かゆみやじんましん、おう吐、下痢の他、最悪の場合ショックを起こして死に至るケースもある疾患で、白血球の一種であるマスト細胞がアレルゲンを受容し、ヒスタミンなどのアレルギー物質を放出することで発症する(図1)。
同研究では、食物アレルギーの有望な治療法である経口免疫療法に着目。この治療法はいわば「研究段階」で、どのような作用機序でアレルギーの根治につながっているのかについての情報は少ない。また、治療中の副反応や成功率の低さも課題となっている。
これまで、経口免疫療法を行うことで、ヒスタミンを産生しアレルギーを発症させるマスト細胞の低応答化とアレルギーの抑制細胞である制御性T細胞が増えるという2つの現象は知られていたが、治療の中でマスト細胞の低応答化と制御性T細胞の増加がどのように関連しているのかは不明だった。
研究成果
研究グループは、独自に食物アレルギーの経口免疫治療モデルマウスを作り、実験を実施。その結果、経口免疫療法を行いアレルギー症状が軽減された群では、マスト細胞は低応答の状態になるだけでなく、アレルギーを抑制する制御性T細胞を増やすタンパク(IL-2)や、アレルギー症状を抑えるタンパク(IL-10)を産生し、アレルギーを起こす悪玉細胞からアレルギー反応を抑える善玉細胞へとその性質が変化していることを発見した(図2)。
また、食物アレルギーの経口免疫治療の途中にマスト細胞をマウスの体から除去したところ、制御性T細胞が減少すると同時に制御性T細胞のアレルギーを抑える性質も低下していることが明らかになった。
さらに、経口免疫療法を試験管内で模倣したところ、アレルギーの抑制物質を放出するように変化した善玉マスト細胞の作製に成功。経口免疫療法によるアレルギー治療の成功には、アレルギーを起こすマスト細胞がアレルギー物質を放出させないように低応答化するだけではなく、マスト細胞自身がアレルギーを抑える細胞へと機能を転換させるメカニズムが重要であることがわかった。研究成果により、不明な点が多かった経口免疫療法を成功させるカギの一つが明らかになった。
今後は、アレルギーの悪玉細胞を善玉細胞へと効率的に切り替えるスイッチ機構が明らかになれば、それを応用した切り替え促進薬の開発が期待される。さらに、スイッチ機構を制御し悪玉細胞から善玉細胞への切り替えを安定して行えるようにすることで、食物アレルギー治療の精度向上に貢献できると考えられる。
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December 11, 2020 at 09:30AM
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食物アレルギー治療 成功のカギを解明 千葉大学など研究グループ - 農業協同組合新聞
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