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4WDなしで単一グレード? 「キックス」から読み取る日産の意図(マイナビニュース) - Yahoo!ニュース

日産自動車から登場したコンパクトSUVの「キックス」。洗練度の増した「e-POWER」による電気自動車(EV)のように静かでスムーズな走りは先日の記事で報告した通りだが、今回はキックスのもうひとつのセールスポイントである「プロパイロット」の印象をお伝えしつつ、実質的に1種類のグレードのみとした商品構成の謎にも迫ってみたい。 【写真】SUVでありながら、駆動方式は前輪駆動のみの「キックス」 ハンズオフは無理でも問題なし? まずは、キックスが搭載するプロパイロットの出来ばえから見ていくことにしよう。 プロパイロットは日産の運転支援技術だ。高速道路でプロパイロットを起動すれば、設定した速度で同一車線を走行し、先行車両がいる際には渋滞時を含め追従走行を行う。クルマは道路の車線(白線)を認識しているので、車線の中央を維持できるようステアリングもアシストしてくれる。この機能を使えばアクセルペダルの操作は基本的に不要で、ステアリングには軽く手を添えておくくらいでいい。 最新の「スカイライン」に搭載された「プロパイロット2.0」ではないので、キックスをハンズオフで走らせることはできない。常にステアリングに手を添えておかないと、機能はキャンセルされる。 プロパイロットを初めて採用したのは、2016年に発売となった現行型のミニバン「セレナ」だった。その後は段階的に採用車種が拡大し、その度に認識精度とアシストの的確さも向上してきた。 日産の最新モデルであるキックスが搭載するのは、当然ながら洗練の度合いを深めたプロパイロットである。車線の中央維持に関しては、ドライバーに意識させないほど自然に、そしてなめらかにステアリングをアシストしてくれる。ドライバーに逆らうかのようなカクカクとした動きでアシストしていた初期プロパイロットを思い起こすと、隔世の感がある。わずか数年前のことではあるのだが……。 スカイラインでハンズオフを経験した後で、その機能が付いていない、いわば“プロパイロット 1.0”を試しても、物足りないのではないかと思う人もいるかもしれないが、運転支援において、ハンズオフが可能かどうかは実は最重要項目ではない。というのも、現段階のハンズオフは、自由になった手を使ってスマホをいじったり、本を読んだりできるわけではなく、あくまでステアリングホイールから手を離すことができるだけで、ドライバーは前方を注視し続ける必要があるのだ。 ドライバーの状態は常に監視カメラがチェックしているので、当たり前だが、運転をクルマに任せておいて眠ることもできない。事故に対しては、ドライバーが100%の責任を負うことになる。そのため、空いた両手は文字通り手持ち無沙汰なのだ。 それを踏まえると、自動運転ではなく運転支援の段階では、ハンズオフが可能かどうかではなく、あくまでも先行車追従と車線中央維持の精度が高いかどうか、またアシストがお仕置き的ではなく自然かどうかこそが重要なのである。その観点では、キックスのプロパイロットは車間調整、中央維持ともにスムーズな修正で、市販車として非常に高いレベルにあり、満足できた。 廉価版と4WDの登場は? もちろん、e-POWERとプロパイロットだけがキックスの美点というわけではない。容量423リッターのラゲッジルームは天地、左右、そして奥行きとも見るからにたっぷりとしているだけでなく、凹凸が少なく、容量を有効に使える形状をしていた。これなら、スポーツやキャンプなどのアウトドアアクティビティのツールとしても活躍するだろう。 ただし、現時点では4WDが用意されないため、泥濘路や除雪されていない道路といった本格的な悪路には向かない。発売と同時に、販売店には4WD設定を望む声が届き始めたそうなので、遠くない将来、追加されるのではないだろうか。「ノート e-POWER」には4WDが存在するので、技術的なハードルがあるわけではないはずだ。早期の発売を優先し、FWD(前輪駆動)のみでスタートしたというのが実情だろう。 日産にとって、キックス発売は新型車としては約3年ぶり、全く新しい車名のモデルとしては実に10年ぶりとなる。苦境に立たされている日産としては久々の明るい材料で、絶対に失敗するわけにいかないモデルだ。 ライバルのトヨタ「ヤリスクロス」とホンダ「ヴェゼル」は、ハイブリッドとともに安価なガソリンモデルを設定し、幅広い客層を取り込もうとしている。一方のキックスは、ハイブリッドのe-POWERモデルのみの設定だ。さらに、プロパイロットも全車標準装備としていて、価格は内装の違いで275万9,900円と286万9,900円の2種類となる。事実上の単一グレードとは潔いが、当然ながら、ガソリンモデルを設定するライバルよりもスターティングプライスは高い。 これについて日産の小木曽宏行チーフマーケティングマネージャーは、4WDモデル同様、将来的にガソリンモデルを追加する可能性はあるとしたうえで、数十万円の価格上乗せになるにもかかわらず、ノートの販売台数の実に7割、セレナでは5割弱がe-POWERモデルと、日産の想定以上にe-POWERが受け入れられている現状を考慮しての判断だと説明する。久々の新型車として注目度の高いキックスをe-POWER専用モデルとし、さらにはプロパイロットを標準装備とすることで、電動化と自動化が日産のコアテクノロジーであることを際立たせる狙いがあるのだろう。考えてみれば、販売台数を増やすための4WDモデル、ガソリンモデルはいつでも追加できるのだ。 業績回復に向け待ったなしの日産から、全社員の期待を背負って登場したキックス。発売1カ月で1万台超の受注を記録するなど、立ち上がりは好調な様子である。ライバルひしめくコンパクトSUVカテゴリーでどのような存在感を示すかに注目だ。 塩見智 しおみさとし 1972年岡山県生まれ。1995年に山陽新聞社入社後、2000年には『ベストカー』編集部へ。2004年に二玄社『NAVI』編集部員となり、2009年には同誌編集長に就任。2011年からはフリーの編集者/ライターとしてWebや自動車専門誌などに執筆している。 この著者の記事一覧はこちら

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